アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は乳幼児期に始まることが多く、長期間続く皮膚炎で、症状は痒みのある湿疹が中心です。
原因には体質的なものと環境的なものとが絡んでいると考えられていますが、まだ詳細はわかっていません。
乳幼児期に始まったアトピー性皮膚炎が成人期まで続くこともあり、 中には成人になってから始まる人もいます。
喘息、アレルギー性鼻炎、 アレルギー性結膜炎など他のアレルギー疾患が同時に見られることが多く症状や経過には個人差が大きいので、治療 効果を みながら、注意深く、根気強く治療する必要があります。

施術内容

予防方法 アトピー性皮膚炎の原因は複合的な場合が多いので、予防や治療の場合も根気よく続けることが、非常に大事です。
原因となる食物は避けなくてはいけませんが、他にもバランスの取れた食事療法をし、ダニ、ハウスダストなどから身を守り、清潔保持、肌の保湿に努めなくてはいけません。
治療方法 スキンケアを含む皮膚の局所療法:抗ヒスタミン剤、ステロイド剤。抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤の内服療法。
当院ではなるべくステロイド剤を使わず、保湿剤、セラミドγ、オリザノールの外用をすすめています
治療期間 長期間根気よく治療しなくてはなりません。

ビオチン療法

ビオチン

皮膚炎の患者さんでは、ビオチン(ビタミンB群に属するビタミンの一種)が欠乏していることがあり、これに由来する体の中でブドウ糖、脂肪酸(脂肪の主成分)、アミノ酸などの代謝が障害されています。
ブドウ糖はコラーゲン作りの成分として皮膚や骨作りに役立っていますので、この代謝が障害されますと、皮膚や骨に異常がおこるようになります。
脂肪酸は皮膚の細胞の主要な成分であり、リンパ球の抗体作りを正常に保つ働きをもっていますので、脂肪酸の代謝が障害されますと、皮膚の構造や機能に異常がおこるだけでなく、リンパ球の抗体作りにブレーキがきかなくなってしまい、抗体が過剰に作られてアトピー性皮膚炎がおこるようになります。
また、アミノ酸の代謝障害は皮膚や骨作り、あるいは免疫機能に悪影響を与えて病状を悪化させてしまいます。

ビオチンには副作用がありません。ビオチンは値段が安く、安全で有効な治療薬です。欧米の国々では、乳幼児の皮膚病の発生を防ぐために、粉ミルクにビオチンを加えています。
しかし、わが国では許可されていません。このことが乳幼児に皮膚炎が多い理由の一つと考えられています。
ビオチンは食物中に多く含まれているので、特別にとる必要はないという人がいます。
しかし食品中のビオチンは殆んど食品中の蛋白質と結合した結合型ビオチンであって、腸から吸収されません。
わたし達の腸は遊離型ビオチンしか吸収しません。遊離型ビオチンは腸の中にすんでいる細菌(腸内細菌)によって作られており、これが腸から吸収され、利用されています。
健康な人では、通常、ビオチン欠乏はおこりませんが、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、作られたビオチンを壊してしまったり、食べてしまったりする悪玉菌が腸内にはびこっているために欠乏状態になっていることが予想されます。

そこで、患者さんの治療のためにビオチンを投与する場合、腸内の悪玉菌によって壊されたり、食べられてしまったりしないように、活性酪酸菌生剤(整腸剤の一種)を一緒に投与することも重要な治療法の一つになります。
ほかの整腸剤に含まれている菌はかえってビオチンを食べてしまいますので、投与しますとビオチンの治療効果を妨害するといわれます。
また、悪玉菌は抗生物質に耐性ができやすく、抗生物質の投与で一時的に悪玉菌の勢力を押さえ込んだとしても、すぐに勢力を盛り返してしまいます。

ビオチンは水溶性なので排泄されやすく、飲み忘れをしますと、血液中のビオチン濃度が低下してしまい、治療効果が得られなくなりますので注意してください。
また、ビオチンは卵白中に含まれているアビジンという蛋白質と結合して、腸から吸収されなくなりますので、生たまごを食べないでください。加熱すれば問題ありません。
ビオチン治療をしている患者さんでは、ケーキを食べられるときクリームに注意してください。

アトピー性皮膚炎について

食物とアトピー性皮膚炎

よく食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の発生にかかわっているようにいわれていますが、関係ありません。
食物アレルギーは胃腸の機能がまだ発達していない2歳までの幼児に多く発生します。腸の機能がまだ発達していない時に離乳食を与えますと、離乳食に含まれている蛋白質がそのまま腸から吸収されてしまうため、その蛋白質に対する抗体が作られてしまうからです。
2歳を過ぎますと、腸の機能は発達して、食物中の蛋白質はアミノ酸にまで分解されて吸収されるようになり、食物アレルギーはおこらなくなります。血液検査だけからの判断で極端な食事制限をしまと、かえって幼い患者さんの心身の発育に重大な悪影響を与えてしまいます。
いま、アメリカでは離乳をできるだけ遅くするような指導がおこなわれています。

ヨーロッパでは魚の油、とくにニシンの油がアトピー性皮膚炎治療薬として使われてきました。
魚の油に含まれているα-リノレン酸由来のエイコサペンタエン酸(EPA)という脂肪酸から作られるプロスタグランジンE3(PGE3)がリンパ球の抗体作りにブレーキをかけて、抗体作りを正常にしますので、病気がなおるからです。
しかし、ニシンの油の治療は役に立ちませんでした。ビオチンにはニシンの油に含まれている脂肪酸の主成分であるα-リノレン酸からEPAやPGE3を作る反応を促進する働きもありますが、アトピー性皮膚炎の患者さんでは欠乏していますのでので、この反応がおこらないからです。

そこで、ビオチンの投与はこの反応を促進して、病気の治療に有用となります。EPAはゴマ油、エゴマ油、シソ油や海苔にも含まれていますから、これらを食生活にとり入れてください。
植物油や動物油のとりすぎは、それらの油に含まれている脂肪酸の主成分であるリノール酸をとりすぎることになり、アラキドン酸やプロスタグランジンE2(PGE2)をどんどん作り、これらがアトピー性皮膚炎を発生させたり、悪化させたりしてしまいます。
最近、油のとりすぎがアトピー性皮膚炎を発生させやすいといわれていますが、このためです。

皮膚バリアの障害

アトピー性皮膚炎のもう一つの特徴に表皮バリアの障害があります。
皮膚の表面にはセラミドという「接着剤」で固められている角質層という特殊な層があり、これがバリアとなって外から色々な刺激が侵入するのを防ぎ、また、皮膚の内部から水分がもれ出るのを防いでいます。
ビオチンが欠乏しますと、セラミドの性状が変わり、量も少なくなって「接着剤」としての効果がなくなり、角質層がバラバラになってしまい、バリアとしての機能がなくなってしまいます。そのために、外からの刺激が容易に皮膚の中にまで侵入して炎症(かぶれ)をおこしてしまいます。
また、水分は外に出やすくなるので、皮膚はカサカサになってしまいます。

よくアトピー性皮膚炎の原因としてダニやハウスダストが考えられています。
患者さんの皮膚の患部にダニがくいつていたり、ハウスダストがべっとり付着しているのなら納得できますが、血液検査の結果でダニやハウスダストの反応があったというだけでは、診断する根拠にはなりません。
前述のように、患者さんでは表皮バリアが傷害されていますので、ダニやハウスダストの成分が容易に皮膚の内部にまで侵入してしまい、「かぶれ」をおこすと考えたほうが理解できるのではないでしょうか。
したがって、血液検査をすれば、当然、ダニやハウスダストの成分に対する反応が検出されるわけで、検査の結果だけで判断してしまいますと、ダニやハウスダストそのものを犯人に仕立ててしまうことになります。

食べ物や他の物質の場合でも同じことが言えると思います。
血液検査で卵とミルクに対する反応があるので、卵とミルクは摂取しないようにといわれ、摂取していなかったという患者さんに対して食生活に関する問診をしますと、カステラやケーキが大好物なのでよくたべていると答えられことがあります。
しかし、なんらの異常もおこっていません。皆さんはこのことをどのようにお考えになりますか?
ある学会でアトピー性皮膚炎のどの患者さんの血液検査で卵やチーズ、肉に対して反応があったので、これらは避けるべきだが、蛇と蛙の蛋白質に対する反応はなかったので・・・という発表がありました。
発表した人はまじめな医学的研究の発表と思われているかもしれませんが、血液検査の結果だけから診断してしまいますと、このように非現実的なものになってしまい、患者さんの病気の診断や治療にはまったく役に立ちません。

皮膚バリアの障害の治療にはビオチンが特効薬になります。また、ステロイド軟膏がバリアの傷害を速やかに改善します。傷害の程度に応じてワセリンで希釈したステロイド軟膏を塗擦(すりこむこと)しますが、皮膚の傷害がよくなるにつれて軟膏をどんどん希釈して、軟膏の治療を中止するようにするならば、ステロイド禍やリバウンド現象をおこしません。
よくステロイド軟膏を「悪魔の化身」のように恐れている人がいますが、ステロイド軟膏の性質や使い方を知らないからです。ステロイド軟膏による治療は患者さんの皮膚バリアの障害による角質層の代役と内部の炎症(かぶれ)の治療を目的としており、「かゆみ」の症状を早くやわらげるための治療法なのです。